専門家による記事

精神疾患とスティグマ #1

“スティグマの難しいところは、本質的な問題が自分自身ではなく、社会構造の内部や他者の内面にあるところです”

#スティグマとはなんですか?

スティグマをごく簡単にいうと、「個人がある特徴(例:特定の疾患)を持った際に、社会や他者から不当に評価されることや不当な扱いことをうけること」といえるかもしれません。スティグマの歴史は古く、もともとは古代ギリシア人の奴隷が付けられた焼き印が語源です。つまり、「身分の低い者」を識別するために強制的かつ人為的に付けた身体的印から発展した言葉です。過去半世紀の間で、スティグマという用語は医療や対人サービスの分野に徐々に広がりました。特に、精神障害やエイズなどの疾患を持った人、LGBTなどのマイノリティー集団に対する「否定的なラベル付け(ラベリング)」として、スティグマという言葉を用いられることが多くなりました。

個人への印・ラベルに由来するスティグマですが、実際には様々な問題が包含されており、社会や制度の在り方とも関連しています。そこで、現在のスティグマは、社会構造レベルと個人レベルに分けて、それぞれの特性について説明されることが一般的です。社会構造レベルのスティグマは、例えば、精神疾患を持つ人に対する支援が乏しいこと、あるいは精神科医療への国の予算が少ないことなど、制度的な側面で精神疾患を持つ人が社会的に排除されてしまう仕組みを指します。個人レベルのスティグマは知識の問題、態度の問題、行動の問題を含みます。知識の問題は、精神疾患は治らない・危ないなど、精神疾患に対する誤った理解を指します。また、態度の問題は、精神疾患を持った人は怖い・一緒に働きたくないなど、偏見や拒否的な気持ちを指します。行動の問題は、精神疾患を持った人を実際に雇わない・口をきかないなど、具体的な差別や排除的行為を指します。このようにスティグマという言葉はいくつかの階層や要素を持つことから、多義的な言葉といえるでしょう。

山口 創生

山口 創生

著者サイト

肩書

博士(社会福祉学)

所属

国立精神・神経医療研究センター 精神保健研究所

紹介文

山口先生は大阪府立大学社会福祉学研究科在学中にキングス・カレッジ・ロンドン精神医学・心理学・神経科学研究所に留学されました。帰国後に大阪府立大学社会福祉学研究科卒業され、その後は国立精神・神経医療研究センターで精神疾患に対するスティグマについて研究されています。2016年からはこころのバリアフリー研究会の評議員、2018年からは日本精神障害者リハビリテーション学会の理事も務められています。今回は山口先生がスティグマについてRestbestに語ってくれました。