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精神疾患とスティグマ #2

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“スティグマの難しいところは、本質的な問題が自分自身ではなく、社会構造の内部や他者の内面にあるところです”

#スティグマを定量化する方法にはどのようなものがありますか?

スティグマには、いくつかの測定方法があります。知識の問題や態度の問題は尺度(構造化されたアンケート)で測定し、定量化することが一般的です。たとえば、知識の尺度は「精神疾患は4人に一人が経験する」について、「はい」「いいえ」「わからない」で回答する項目などが用意される場合があります。また、態度については、「精神疾患を持った人と一緒に働いてもよい」について、5件法で回答する項目を用意することがあります。態度の問題の定量化については、コンピューターソフトを用いて、統合失調症という言葉で連想する言葉(例:危ない、天才)などに反応するスピードを測定するという方法もあります。行動の問題もアンケートなどで測定することもありますが、国や自治体レベルの大規模調査などでは、精神疾患を持っている人の結婚機会や雇用機会など、実際の社会的機会とその損失で測ることもあります。スティグマの測定方法はここで紹介する以外にもあり、必ずしも固定的あるいは標準的な定量化の方法があるわけではありません。

スティグマの定量化については、行動の問題(差別)に関する測定方法の開発が近年の大きな課題です。従来、スティグマはアンケートなどで測定されることが多く、定量化の対象事象は、往々にして知識の問題や態度の問題でした。しかしながら、精神疾患を持つ人の一番の困りごとは、当然現実世界における不当な排除的扱いです。スティグマという多義的かつ包括的な言葉を、知識・態度・行動の3つ側面に整理した背景には、無視されやすい行動の問題に焦点を向けるという狙いもありました。一方で、実際の差別体験の数値化は簡単ではありません。スティグマの問題の定量化は現在の科学では困難を伴うことが多いのですが、特に行動の問題の測定方法は今後の科学的発展が望まれています。

山口 創生

山口 創生

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肩書

博士(社会福祉学)

所属

国立精神・神経医療研究センター 精神保健研究所

紹介文

山口先生は大阪府立大学社会福祉学研究科在学中にキングス・カレッジ・ロンドン精神医学・心理学・神経科学研究所に留学されました。帰国後に大阪府立大学社会福祉学研究科卒業され、その後は国立精神・神経医療研究センターで精神疾患に対するスティグマについて研究されています。2016年からはこころのバリアフリー研究会の評議員、2018年からは日本精神障害者リハビリテーション学会の理事も務められています。今回は山口先生がスティグマについてRestbestに語ってくれました。