専門家による記事

精神疾患とスティグマ #3

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“スティグマの難しいところは、本質的な問題が自分自身ではなく、社会構造の内部や他者の内面にあるところです”

#スティグマを改善するあるいは悪化させる要因として知られているもの考えられるものは何がありますか?

これまで様々な研究が、個人レベルのスティグマの程度に影響する要因を提案してきました。例えば、性別や年齢、学歴などはしばしばスティグマの程度に関連するといわれています。最も頻繁に指摘される要因は、精神疾患を持つ人が知り合いにいることです。より具体的には、精神疾患を持つ人と実際に交流することは、スティグマの低下に関連しているといわれています。一方で、精神疾患を持つ人との単純な出会いが、スティグマの低下につながるかというと話は別です。例えば、一時的に精神症状が悪化した人(例:上を向いて一人でぼそぼそ話している)と駅で出会った人は、むしろスティグマを強めてしまうかもしれません。あるいは、重度のうつ症状でパフォーマンスが下がった同僚と一緒に仕事をした経験のある人は、やはり精神疾患に関するスティグマを持つかもしれません。言い換えますと、精神疾患を持つ人と良い形(例:一緒に作業をする、サークル活動をする)で知り合うということが、スティグマの軽減には重要と思われます。このような機会を増やすことが、スティグマの改善を図るうえで最も重要な戦略となると考えられます。

精神疾患に関する教育はどうでしょうか?例えば、専門家が精神疾患に対して正しい情報を提供したとしたら、情報を得た人はスティグマを低下させるでしょうか?答えは、部分的に「YES」です。特に、個人レベルのスティグマにおける知識の問題に関しては、教育や状況提供は有効と思われます。精神疾患に関する正しい情報を持つことは、自身のメンタルヘルスの維持のためにも重要です。一方で、一般に知識の増加は、態度や行動の変容につながらない場合も珍しくありません。例えば、体重減少を目指すダイエット運動の知識を持っていても、実行するか否かは、人によりますよね。すなわち、教育や情報提供は必要ですが、それだけではスティグマの改善を図ることは難しいといえるかもしれません。

山口 創生

山口 創生

著者サイト

肩書

博士(社会福祉学)

所属

国立精神・神経医療研究センター 精神保健研究所

紹介文

山口先生は大阪府立大学社会福祉学研究科在学中にキングス・カレッジ・ロンドン精神医学・心理学・神経科学研究所に留学されました。帰国後に大阪府立大学社会福祉学研究科卒業され、その後は国立精神・神経医療研究センターで精神疾患に対するスティグマについて研究されています。2016年からはこころのバリアフリー研究会の評議員、2018年からは日本精神障害者リハビリテーション学会の理事も務められています。今回は山口先生がスティグマについてRestbestに語ってくれました。