専門家による記事

精神疾患とスティグマ #5

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“スティグマの難しいところは、本質的な問題が自分自身ではなく、社会構造の内部や他者の内面にあるところです”

#これからのスティグマ研究の方向性を教えてください。

今後のスティグマについての研究は、大きくは2つの方向性に分かれると思います。一つは、(精神疾患を持っていない)個人にアプローチをする方法の発展です。具体的には、専門家によるレクチャーや精神疾患を持った人との意図的な接触機会を設けて、教育機会を得た個人が長期的にスティグマを減少できるかという研究です。このような形の研究は伝統的に取り組まれてきましたが、今後、行動の問題に関する測定方法の改善や調査期間の延長(例えば10年)が実現化されれば、世の中にブレイクスルーを起こす研究知見が発表されるかもしれません。

もう一つは、精神疾患を持っている人や地域のキーパーソン(例:治療者、支援者、雇用主や教師)などにアプローチする方法です。こちらの方法は、精神疾患を持ったとしても、以前の社会生活(例:就職、恋愛、余暇活動など)を継続できるようなシステムや治療・支援を開発することが目的です。スティグマの問題の最終ゴールが、精神疾患を理由とした社会的排除や差別の是正であるのであれば、精神疾患を持つ人が疾患を持っていない人と同等の社会参加ができれば、それはゴールの達成ということになります。また、実際に精神疾患を持つ人が社会にでて活躍する機会が増えると、日常的に彼らと交流する市民が増え、結果的に個人レベルのスティグマの減少にもつながるかもしれません。すなわち2つの目の研究の方向性は、精神疾患を持つ人の社会参加を促進し、その延長として社会のスティグマの是正を図るものといえるでしょう。

山口 創生

山口 創生

著者サイト

肩書

博士(社会福祉学)

所属

国立精神・神経医療研究センター 精神保健研究所

紹介文

山口先生は大阪府立大学社会福祉学研究科在学中にキングス・カレッジ・ロンドン精神医学・心理学・神経科学研究所に留学されました。帰国後に大阪府立大学社会福祉学研究科卒業され、その後は国立精神・神経医療研究センターで精神疾患に対するスティグマについて研究されています。2016年からはこころのバリアフリー研究会の評議員、2018年からは日本精神障害者リハビリテーション学会の理事も務められています。今回は山口先生がスティグマについてRestbestに語ってくれました。