専門家による記事

自分の感情・行動をコントロールする(自己制御) #6

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「マインドフルネスに基づく介入は内受容を介して感情制御の最も効果的な手段である」

# 先生は発達障害の異種性について素晴らしい研究を行なっていらっしゃいます。日本では、患者個人の診断や機能を当てる目的でMRIを利用している人がいます。こういったことは現在可能だと思いますか?

私たちのこれまでの研究を評価してくださりありがとうございます。個人の精神状態や認知機能を特徴づけるための神経生理学的なツールやMRIを用いることは多くの臨床家や神経科学者の夢ですが、こういった手段を診断や認知機能といった複雑なことを予測する目的で当てはめることについてはあまり楽観的ではありません。技術が進歩したとはいえ、脳の状態について正確な像を描くことも予想することにも我々はまだまだ程遠いと思うのです。リアルタイムの脳の状態こそが心の状態や機能に関連し裏付けると思いますが、リアルタイムの脳の状態というのは無数の要因の影響を受け、ダイナミックに変動しているのです。いくつか具体的にお話しすると、ホルモンバランス、カフェイン、アルコールやある食品の摂取、前日の夜の睡眠状況などは全て私たちが撮像するMRIに影響を与えます。一般的にいって、これまでのほとんど全ての脳画像研究は、脳画像的にも臨床像的にも十分な情報を取得しているとはいえません。この欠点は、現在手に入るデータからの推論が脳の機能や構造と状態の大雑把な見積もりでしかないものにしています。MRIを精神疾患の診断ツールに使うことに関しては、私はここでも教師つき機械学習アルゴリズムやケースコントロールデザインを用いた現在のアプローチに由来するバイオマーカーの臨床的全般化を懸念しています。このようなヒューリスティックスは実はトートロジーでしかないという欠点に私の懸念は由来します。

訳注:ヒューリスティックスとは必ずしも正しい答えを導けるとは限らない、なんとなく正しいかもしれないことを導く手法。トートロジーとはある事柄を説明するために同義語を繰り返し使ってしまうこと(「A=A」といって何も話していないこと)。

つまり我々はアルゴリズムから特徴を推量するときにはすでにラベルを貼っているのです。このプロセスは、私たちが精神病理に関する理論的背景や既知のメカニズムに基づいて診断をつける方法とは異なります。正確さ、特異性や感度を含めて教師つき機械学習はMRIデータによってマトリックスを最適化していません。つまり、ある特定のデータでとても素晴らしい正確性が得られる特徴があったとしても、この特徴は他のデータセットでは全般化されることも再現されることもないのです。まとめると、診断したり、発達障害当事者・定型発達者に関わらず人をグルーピングしたりするには、我々はまだまだ程遠いというのが私の意見です。

Hsiang-Yuan Lin (林祥源)

Hsiang-Yuan Lin (林祥源)

著者サイト

https://scholar.google.co.uk/citations?user=QqQ-HVQAAAAJ&hl=en

肩書

MD

所属

トロント大学精神科

紹介文

Hsiang-Yuan Lin先生は国立台湾大学を卒業後、Molecular Psychiatry誌をはじめとした精神科トップジャーナルで論文を発表されています。現在はトロント大学精神科で臨床科学者として勤務されています。ご専門は発達障害当事者の脳画像ですが、特に薬物介入やRDoC的アプローチを取られていることで知られています。今回はLin先生が関心のある自己制御を中心にインタビューに答えていただきました。また隣国ということもあり台湾と日本の医療システムの違いについても話していただきました。