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難治性うつに対する治療概要反復経頭蓋磁気刺激療法 #4

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“治療抵抗性うつ病に対する治療法として、軽症であれば認知行動療法などの心理療法、…長年、精神科外来に通院し、抗うつ薬を処方されているにもかかわらず、うつ症状がなかなか改善しない場合は経頭蓋磁気刺激(transcranial magnetic stimulation: TMS)療法があります。”

# rTMS療法の治療メカニズムはどこまでわかっているのでしょうか?

rTMSは、一連の短い磁気パルスを特定の脳部位に当てることで、脳の電気活動を神経生理学的に修飾する医療技術になります。その結果、rTMS療法はうつ病に関係する神経回路の機能を正常化させるはたらきがあり、そのことがrTMS療法の治療メカニズムに関与していると考えられています。そのような神経の機能が変化する性質のことを「神経可塑性」と呼び、この神経可塑性の正常化が、うつ病の治療メカニズムの1つの鍵となります。ただし、rTMS療法の生物学的な治療メカニズムには、刺激部位における神経細胞内の遺伝子発現をはじめとした分子レベルでの変化から、神経生理学的変化、さらには核医学検査やMRI画像による神経画像上の局所的・ネットワーク上の変化まで、様々なレベルでの神経生物学的機序が関与しており、その全貌はまだ十分には解明されていません。また、rTMS療法の刺激パラメータには様々なものがあり、典型的には、1)脳の刺激部位、2)刺激パルス数、3)刺激強度、4)刺激時間、5)刺激間隔の長さ、6)治療回数などが挙げられます。このことは、rTMS療法が本来的には各患者さんの脳の特性や病態に合わせてカスタマイズできる可能性を示唆しています。したがって、rTMS療法は、治療抵抗性うつ病に対する治療法としては、一定の有用性が既に確立されていますが、治療メカニズムの解明や治療パラメータおよび治療プロトコルの最適化、さらには、他の精神疾患への適応拡大に関して、今現在も世界中で臨床研究されております。

野田 賀大

野田 賀大

著者サイト

https://scholar.google.com/citations?user=9xekxcEAAAAJ&hl=ja&oi=ao

肩書

MD, PhD

所属

慶應義塾大学精神・神経科、Multidisciplinary Translational Research Lab

紹介文

野田賀大先生は東京大学医学部附属病院で研修ののちトロント大学精神科Centre for Addiction and Mental Health・Temerty Centre for Therapeutic Brain Interventionにて、日本人初の精神科研究医として、数年間に亘る本格的なクリニカルリサーチのトレーニングを積まれました。精神科研究医に加えて、そこではrTMS/TMS-EEGの他、Deep TMS、MSTをはじめとしたニューロモデュレーション研究も実施されました。帰国後は、慶應義塾大学精神・神経科でrTMSをはじめとした研究を主導されています。rTMSについて不確かな情報の提供や不適切な治療的介入が行われることが多いので、日本のTMSの第一人者である野田賀大先生にTMSについて教えていただきました。