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難治性統合失調症の定義と生物学的基盤の候補 #2

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“グルタミン酸仮説は治療抵抗性統合失調症の病態を説明する仮説として有力”

# 難治性の統合失調症の人に対する治療法にはどのようなものがありますか?

統合失調症治療の中心は半世紀前に発見されたドパミン受容体拮抗作用を持つ抗精神病薬で、統合失調症のドパミン機能異常仮説の根拠となっています。統合失調症の陽性症状(幻覚や妄想)に対し、約3割の患者さんでドパミン受容体拮抗薬(従来の抗精神病薬)は無効です。

クロザピン(商品名:クロザリル)は、2種類以上のクロザピン以外の抗精神病薬で十分な治療効果を得られない治療抵抗性統合失調症に対して有効であることが確立されている唯一の薬剤です。クロザピンは、治療抵抗性統合失調症に対し、有効性の基準によるものの、30%から60%に有効とされています。クロザピンは、難治性の陽性症状だけでなく、衝動性、自傷・他害にも有効で、治療継続率を上げ、入院期間を減少させます。一方、他の抗精神病薬よりも副作用に注意が必要で、重大な副作用((1)無顆粒球症好中球減少症、白血球減少症、(2)高血糖、糖尿病性ケトアシドーシス、糖尿病性昏睡、(3)心筋炎、心筋症、心膜炎、心のう液貯留)が起こる可能性もあります。そのため、クロザピン導入は血液内科医や糖尿病内科医との連携が円滑な入院環境で行われなければならず、用量の調整も非常に緩徐に増量していくことが定められています。しかし、治療抵抗性統合失調症と診断されてからクロザピン導入までの期間が短いほど、臨床効果が高い、という報告が複数あり、早期のクロザピンの開始が望まれます。

中島 振一郎

中島 振一郎

著者サイト

https://scholar.google.com/citations?user=RLEo1WUAAAAJ&hl=ja&oi=ao

肩書

MD, PhD

所属

慶應義塾大学精神・神経科、Multidisciplinary Translational Research Lab

紹介文

中島振一郎先生は平成14年に慶應義塾大学医学部をご卒業され、同24年に慶應義塾大学医学部医学研究科を修了されました。その後トロント大学医学部精神科に留学され、主に脳画像を用いて統合失調症の治療反応性の研究をされています。中島先生の研究は国内外から高く評価され、American Society of Clinical Psychopharmacology Annual Meeting New Investigator Award, World Psychiatric Association International Congress Young Psychiatrist Award、慶應義塾大学医学部三四会奨励賞をはじめとした多数の名誉ある賞を受賞されています。今回は中島先生に難治性の統合失調症についてお話を伺いました。