専門家による記事
難治性統合失調症の定義と生物学的基盤の候補 #3
“グルタミン酸仮説は治療抵抗性統合失調症の病態を説明する仮説として有力”
# 難治性の統合失調症の治療法の選択の基準やその基盤をなす生物学的な根拠や仮説があれば教えてください。
統合失調症治療の中心は半世紀前に発見されたドパミン受容体拮抗作用を持つ抗精神病薬で、統合失調症のドパミン機能異常仮説の根拠となっています。しかし、統合失調症の陽性症状に対し、約3割の患者さんで従来の抗精神病薬は無効です。更に、最近の研究によりますと、治療反応性統合失調症ではドパミン生成能が亢進していますが、治療抵抗性統合失調症ではドパミン生成能の亢進を認めません。故に治療抵抗性統合失調症は従来のドパミン仮説では説明できません。
一方、グルタミン酸仮説は治療抵抗性統合失調症の病態を説明する仮説として有力です。グルタミン酸仮説は陰性症状(表出や意欲の低下)や認知機能障害も説明する可能性があり、ドパミン仮説より包括的な仮説とされています。近年、プロトン核磁気共鳴スペクトロスコピー(1H-MRS)という核磁気共鳴イメージング(MRI)技術の発展により脳内グルタミン酸を測定することが可能になりました。1H-MRS研究によりますと、特に治療抵抗性統合失調症では脳内グルタミン酸濃度の異常が認められています。こうした背景から、グルタミン酸仮説に基づいた治療抵抗性統合失調症に対する薬剤開発が現在進められています。

中島 振一郎
著者サイト
https://scholar.google.com/citations?user=RLEo1WUAAAAJ&hl=ja&oi=ao
肩書
MD, PhD
所属
慶應義塾大学精神・神経科、Multidisciplinary Translational Research Lab
紹介文
中島振一郎先生は平成14年に慶應義塾大学医学部をご卒業され、同24年に慶應義塾大学医学部医学研究科を修了されました。その後トロント大学医学部精神科に留学され、主に脳画像を用いて統合失調症の治療反応性の研究をされています。中島先生の研究は国内外から高く評価され、American Society of Clinical Psychopharmacology Annual Meeting New Investigator Award, World Psychiatric Association International Congress Young Psychiatrist Award、慶應義塾大学医学部三四会奨励賞をはじめとした多数の名誉ある賞を受賞されています。今回は中島先生に難治性の統合失調症についてお話を伺いました。